2018.07.03
Kra インタヴュー
『通りゃんせ』も『放逸』も、言いたいのは「自分の好きなようにしなさい」ということ。

――歌詞へ狐を直接投影するわけではなく、巧みに存在を匂わせる形にしているところへ、景夕さんのセンスの良さを覚えました。

景夕 あくまでも匂わせる形がいいなと思って。何故なら『通りゃんせ』も『放逸』も、言いたいのは「自分の好きなようにしなさい」ということだからなんです。

――3人は、『通りゃんせ』の魅力をどのように受け止めています?

靖乃 『通りゃんせ』のデモ曲を聞いたときから、この曲のゴールが見えてたというか。タイゾの作る曲には何時も明確な意思表示が成されているし、伝えたい意図をわかりやすく提示してくれる。『通りゃんせ』は楽曲も華やかだし、世界がパーンと開けるような瞬間も中に出てくるじゃないですか。そこを、グーッとドラムで押せる感じを心がけながら叩いてました。

結良 『通りゃんせ』はピアノの音色も綺麗だし、オーケストラも入ってるし、展開もすごい広がってゆく。そのうえで和をコンセプトに据えたように、いろんな要素が詰め込まれている。だけど、音だけを聴いたら和のコンセプトの楽曲だとはたぶん思わない。そこは、歌詞を聞いて初めてわかるように、一見単純だけど、じつはとても複雑でお洒落な曲だなという印象ですね。気づいたら曲が終わってたくらい、同じパートがほぼないところも特徴的です。

タイゾ 毎回前作とは違う新しいテイストを入れたいなと思っているように、今回も、そこは心がけたこと。『通りゃんせ』では、サビだけサンバのリズムにしながら、全体的には壮大な感じを心がけました。1曲の中へ、しっかり起承転結を描きながら、でも、ライブでもしっかりノレる曲という想いを持って、この『通りゃんせ』を作り上げました。

――『通りゃんせ』は、つかみの多い楽曲ですよね。

タイゾ メロディは全部キャッチーにしようと、最初から決めて作りました。

――『通りゃんせ』の言葉の選び方も華やかです。

景夕 Aメロからサビに移ったときの華やかさ、そこをどういう風に歌詞で表現しようかが一番最初に悩んだところ。結果、イントロからすぐ入るAメロの歌詞へは、こういうことがあってと説明を促す、時代背景を示す言葉を置きました。サビには華やかさを覚えたことから、「花が咲く感じだな」ということで「花咲け」という言葉を持ってきています。



「あっ、狐のことね」と思いつつ。歌詞を読むと異なる想いが見えてくる。

――2曲目には、艶やかさと心地好さを重ねあわせた『放逸』を収録しています。

景夕 『通りゃんせ』へ描きたい歌詞の方向性を示したうえで、『放逸』の歌詞も手がけ始めたんですけど。『放逸』の歌詞の落としどころを定めるのが難しかったと言いますか。
『放逸』の楽曲自体へ、真面目さと、フワッとした部分と、切ない感じが出ていれば、その三要素がいい感じで混じり合ってるんですよ。その曲調を踏まえ、「歌に登場する子はどんな性格だろう」と考えながら歌詞を書き始めました。
『放逸』の主人公は、自暴自棄になってるというか、何処かあきらめな視線も持っている。それは、同じような経験を繰り返してしまう自分の性格をわかっているから。「この性格はもう変えられない」とあきらめつつも、少しでも修正したい気持ちもある。そんな感覚も達観した視点で描いています。

――2曲とも、主観と客観両方の視点で描いてる面も特徴的なこと。

景夕 自分だけの視点で書くほうが楽なんですけど。自分がどう人に見られてるかも同時に投影したほうが、より深く人間性を描けるなという想いが自分の中へあったことから、『通りゃんせ』も『放逸』も、主観と第三者の目の視点が混じり合っている形で歌詞を書くことを心がけました。

――『放逸』によく出てくる「カランカラン」という言葉の響きが、とても印象深くて好きなんです。

景夕 じつは、その言葉の表現が一番悩んだところでした。結果、その言葉が登場人物のイメージを巧みに広げる効果へ繋がったなと思います。また、「こんこん」という表現についても、歌詞では一切狐の鳴き声としては使っていません。「こんこん」や「こうこう」という狐の鳴き声を、まったく別の意味にとらえて記しました。だから、歌詞を読まずに聴感上だけで聴いた場合、「あっ、狐のことね」とみんな思いつつ。歌詞を読むと、そうじゃない異なる想いが見えてくる。そういう風にも表現しています。

――3人は、『放逸』にどんな印象を覚えています?

靖乃 『放逸』のドラムパターンは、ほぼメロコア。全体的に少し突っ込みぎみに叩きながら、疾走感を止めないようにプレイしています。『放逸』も、『通りゃんせ』とは異なるパターンを持って1曲の中でどんどん変わっていくように、その変化の中でも疾走感を生かしながら、ビートが跳ねるようにと叩きました。和太鼓っぽいフロアータムの音でどんどんまわしてるところも、この曲の特徴かな。

タイゾ 今も発言があったように、『放逸』はメロコアなリズムなんですね。それにパワーコードを重ねるとKraっぽくないなと思い、その結果出てきたアプローチが三味線っぽくギターを弾くこと。ただ、けっこう手元の忙しい楽曲だから、演奏中はまったく気が抜けないです。

結良 自分の予測を超えた、想像以上のものが出来上がったのでとても満足です。自分には出てこない発想を持っているメンバーが集まっているのがKraのように、その良さが『放逸』にはしっかり反映されてるなとも感じました。



その時ごとのバンドの表情に合った楽曲へ形を変えていくのは自然なこと。

――『サァカス-piano ver.-』と『幻灯機械-acoustic ver.-』は過去に発表した楽曲のカバーになります。

景夕 『サァカス-piano ver.-』はホントに昔からある楽曲で、これまでにもいろんなパターンにアレンジして演奏を続けてきました。ピアノバージョンを作ったのにも理由があったと言いますか、昨年、結良さんのバースデーライブをディナーショースタイルでやったんですけど。場の雰囲気へ合わせ、Kraの楽曲を僕がピアノで弾くインストスタイルにアレンジした曲も披露したんですけど。そのときに演奏したのが『サァカス-piano ver.-』なんです。そこで手応えを覚えたことから、あのときのアレンジのままに収録。
Kraはこれまで何度もアコースティックなスタイルでライブを演れば、いろんなアコースティックな姿へアレンジした楽曲を作り続けてきました。それに親しんできたお客さんたちからも、「アコースティックなバージョンでも音源にして欲しい」という声をいろいろいただいてたことから、その中から今回『幻灯機械-acoustic ver.-』をピックアップし、収録しました。

靖乃 Kraは毎年数多くのライブも演っていますが、同時に、インストアイベントも数多く重ね続けています。中でも、アコースティックなスタイルは、普通にライブとしてもセットリストの中へ組み込んだり、アコースティックな形のみで通すこともあれば、インストアイベントで披露する形も取ってきました。そこで培った面を、あえてハイライトな姿として『サァカス-piano ver.-』と『幻灯機械-acoustic ver.-』を通し、今回のシングル盤の中へ落とし込んだわけなんです。結果、新曲の『通りゃんせ』や『放逸』も含め、この4曲を並べることで「Kraは、これだけの振り幅を持っている」「間もなく結成17周年目を迎える今の4人で演奏したら、これだけの表現が出来るんだ」という形を詰め込めた手応えも覚えています。まさに今回のシングル盤には、「2018年上半期のKraの成長の証」をパッケージ出来たなと思います。
タイゾ 『サァカス-piano ver.-』と『幻灯機械-acoustic ver.-』も、原曲をそのままテンポを落としてストロークで演奏しましたじゃなく、とても緻密にアレンジをしています。毎回そうですが、Kraが自分たちの楽曲をいろんなスタイルへアレンジする場合、かならずアレンジするうえでのテーマを決め、それに沿って新たに作りあげています。そのこだわりも、このシングル盤を通して感じてもらえたら、俺らとしても嬉しいですからね。

結良 アレンジしたくなるのも自然な流れと言えば、そうなんですよね。活動を始めてから間もなく17年、つねに進化を求めてく以上、それぞれの楽曲を発表したときと同じ形のままにはけっしてならない。まして、活動初期の楽曲を当時の形のまま演ることは、僕らにとって逆に難しいこと。やはり、その時ごとのバンドの表情に合った楽曲へ形を変えていくのは自然な行為。その自然なアプローチが、『サァカス-piano ver.-』と『幻灯機械-acoustic ver.-』にも反映されたんだと思います。