2023.12.07
ASTERISM NEWS
去る11月1日に発売された3枚目のフル・アルバム『DECIDE』が好評なASTERISMが、11月23日、東京・渋谷CYCLONEにて単独公演を実施した。これは同作のリリースに伴い11月4日に名古屋を皮切りにスタートしていたワンマン・ツアーのファイナル公演にあたるもので、チケットは公演当日を待たずに完全ソールド・アウト。熱心なファンで埋め尽くされたライヴハウスの親密な空気の中で、HAL-CA(g,vo)、MIYU(b)、MIO(ds)の3人は約90分間にわたる熱演を繰り広げた。
MIOが編集を手掛けたというオープニング映像が終わり、ステージ上に3人が登場すると、まず炸裂したのは“STARDOM”だった。『DECIDE』の幕開けを飾っていた楽曲の登場に、オーディエンスは大きな歓声をあげ、キャッチーでカラフルかつハイ・テンションな世界に同調していく。『DECIDE』自体は発売からまだ間もないものの、その収録曲群は『ASIDE』、『BESIDE』として分割されたデジタルEPという形で先行配信リリースされていたこともあり(逆の言い方をすればその両者が合体し、『DECIDE』としてフィジカル・リリースを迎えたというわけだ)、ファンの間ではすっかり浸透しているのがわかる。
このアルバムに“決意”を意味するタイトルが掲げられているのは、今回の彼らがまさしく意を決して、新たな領域へと足を踏み込んでいるからに他ならない。それは、いわゆる“歌モノ”への果敢な取り組みだ。2014年の結成当時から、その若さとは不釣り合いなほどの演奏技術の高さで注目を集め、同時にそれをアイデンティティとしてきた彼らが現在打ち出しているのは、広く大衆(mass)からの共鳴を獲得し得るものとしての「マスメタル」という独自のスタイルだ。それ自体をカタカナで表記すると、テクニカルで変拍子バリバリの数学的(math)なマスメタルとも重なってくるが、そもそも超絶インスト・バンドとして成長を重ねてきた彼らが、より積極的に“歌”に取り組むことにより、自らの可能性を内側から押し広げようとしているのだ。そうした自分たちの新しい姿を強調するかのように、ライヴ前半の7曲はすべて歌モノで占められていた。
ただ、そうした新たな挑戦は、従来のスタイルや独自性を否定するものではない。ライヴが後半に差し掛かるところで披露された“BLAZE”、“Gunfire”、“Light In The Darkness”というそれぞれに傾向の異なったインストゥルメンタル曲の連射は、まさしく火に油を注ぐかのようにフロアを過熱させた。誤解を恐れずに言えば、現在のASTERISMはある種の過渡期にある。少なくとも今の時点において、このバンドならではの特性が最大限に発揮されるのは、やはりインスト曲の演奏時ということになるだろう。HAL-CAはギター・プレイの技巧面のみならず、歌い手としての声量やクリアな高音の伸びにも類稀なものを持っているが、現段階においてはまだ進化の途中過程にある。ただ、当然ながら、そう感じさせられるのは、すでに各々が演奏面では充分過ぎるほどに饒舌さを持ち合わせているからこそだ。筆者としては、彼女が歌い手としての可能性を今後さらに広げていくことで、このバンドの音楽自体がいっそう飛躍的な発展を遂げていくことになるはずだと感じた。
そうした流れの中、具体的な形で新たな可能性のひとつが提示されたのが、アンコール時のことだった。ライヴ本編が終了してもまだまだ帰路に就くことを望まないオーディエンスの熱意に応えて披露された3曲のうち、“PEACE”はMIYUによるラップからHAL-CAのヴォーカルへと移行していく新機軸の新曲だった。筆者は同楽曲自体に新鮮な手触りを感じるのみならず、『DECIDE』を経たうえで3人がすでに次段階へと歩みを進めつつあることを実感させられた。そして、アンコールの最後に満を持して披露されたのは、フロアを埋め尽くしたメタル野郎どもを熱狂させずにおかない“METAL”だった。すべての演奏を終えた3人はすがすがしい表情でステージを去り、オーディエンスも満足げな様子でその姿に声援と拍手を送っていた。
いくつか補足をしておくと、この夜のライヴにおいて象徴的だったことのひとつに、外国人客の多さがある。それは純粋に、彼らのこれまでの国外での精力的かつ継続的な活動ぶりのたまものといえるはずだ。そして、この日は実はHAL-CAにとって21回目の誕生日でもあった。ライヴ中盤のMCの場面では彼女自身の口から「今日、21歳になりましたー!」という報告があり、そのままメンバー同士のなごやかなやりとりがしばらく続いた。演奏時のテンションの高さとはギャップのある、こうした自然さもまたASTERISMのひとつといえるはずだ。ただ、そうした若さと技術、硬と軟のコントラストがいわゆる“ギャップ萌え”を誘う部分も確かにあるはずだが、それを抜きにしても人を惹き付けるだけの魅力と可能性がこのバンドにはある。そう確信できた一夜だった。
可能性は、まだまだ広がっていく。この日をもってバンドの平均年齢は22歳となったが、なにしろつい数年前まではライヴ後に“打ち上げ”をするにしてもソフトドリンクで乾杯せざるを得ない年齢だった彼らが、こうして自分たちの音楽的領域を押し広げながら、活動基盤をも拡げ続けているのだ。この夜、終演後の彼らは、打ち上げ会場ではなく、次の公演地であるシンガポールへと向かった。この短い国内ツアーの終了は、『DECIDE』を起点とする時間の流れにおける、最初の区切りでしかない。この先、3人がどんな音楽的冒険をみせてくれるのかが、ますます楽しみになってきた。
ライター: 増田 勇一
カメラマン: 上坂 和也
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